《probable cause》について
●酒井事件に関連づけて●
酒井さんに対する逮捕状発布に必要であった《probable cause》について判断するには、
①情報の信頼性と情報提供者の信頼性を独立に判断すべし、とするもの(Aguilar-Spinelli test)
②《the probable-cause affidavit》で述べられた状況全体に焦点を置いて考量すべしとする もの(totalityof-the circumstances test)
の二種類の考察法がある。アメリカの判例は②で固まったようではあるが、日本が全ての面で司法的退嬰振りを示しているところであるからには、出来るだけ手続的正義に重点を置いた審査をすべきである。だから、②の方がふさわしいのである。
情報提供者は、酒井さんの「夫」だけであろう。もし他にいるとすれば、多分に、実際の刑事公判は、この得体の知れない誰かをネタ元にし、《extrajudicial source》を元にして決定づけらる危険性が高い。そもそも、日本の裁判所は、民事であれ刑事であれ、ひたすら《extrajudicial source》におんぶにだっこされる腹芸裁判に走りやすいのであり、これに対する厳重な警戒が必須である。
自白したとされる「夫」はふしだらなヒモ生活に耽っていたのであり、その生活基盤を「妻」に依存していたからには、覚醒剤関連の罪責も「妻」になすりつけるであろうと合理的に強く推定できるのである。だから、情報提供者が「夫」のみであれば、この点からも、安易に《probable cause》があると認定すべきではなかったのである。
逆に酒井さんから見れば、息子を―remoteではあるが―人質に取られているように思われていたのではないだろうか。息子がいるからには、「夫」の言いなりにならざるを得ない面が強かったのではないか、と推定されるのである。酒井さんの生い立ちも家庭的に極めて不幸な境遇下にあったからには、「夫」は兎も角、生まれた息子に対する愛着の情は、普通に家庭的幸福を感得したことのある人には想像できないほどに強いはずである。そのため、父親でもある「夫」に対しては隷属せざるを得なかったであろう、と思われるのである。総じて、酒井さんは、息子を媒介にして、「夫」による強烈な《duress》の下にあったと判断されるべきなのである。例えば、夫が絶えず追尾して回り、後方から見張っている下で、万引きを繰り返した妻は、免責されなければならないのと同様に、本案事件も、全ては「夫」を間接正犯とするものであると擬律されなければならないのである。
近隣の者の目撃証言として、「夫」はいつも上機嫌であったが、「妻」は不機嫌であったというのが報道されたが、これが、「家庭」内部を呪縛する《duress》を示す状況証拠と成っているのである。
覚醒剤関連のitemsは酒井さんの自宅で発見されたと警察は発表しているようであるが、自宅からかなり離れたところで「夫」を逮捕しているはずであり、しかも、当時、夫婦関係は破綻していたのであるから、「夫」の自宅を捜索するのは兎も角、酒井さんの自宅を捜索するには、別途、令状が必要だったのである。しかるに、係る令状申請をすることなく、強引に酒井さんの自宅に侵入したのは住居不法侵入になり、《trespass ab initio》に成っているほか、酒井さんの自宅での「押収」物には証拠能力が否定されなければならないのである。
日本警察の「取り調べ」は、特に女性相手には、一日十二時間以上・約数年以上に亘るのを通例としている。その「取り調べ」とは、警察暴力の作文調書に迎合する「自白」を強要するものでしかないのである。そして、女性であればこそ、一日当たりの時間数、総体としての人身拘束日数からして、迎合せざるを得なくなるわけである。まして、今度は確実に長男を人質に取られてしまうのであるから、一層そうである。従って、後日、作成されたと宣伝される「自白調書」なるものは、全くの虚偽であり、警察の作文調書に暴力を以て「署名押印」させただけのものに過ぎないのである。これらの点は、被告人となった段階で、公判廷で検察側提出のあれこれの証拠を被告人自らquashしていくべきであり、弁護士はそのためにこそ、強力に被告人を支援しなければならないのである。
兎も角、逮捕状申請段階では、上記の如き反対《version》を担当裁判官自ら構想して申請者にぶつけなければならなかったのであり、そうしていれば、安易な令状発布を防ぐことが出来たであろう、と思われるのである。

